キョウとユタカシリーズ
「ん」 〜11月11日Ver.〜



「ん」
 そう言って、ユタカが口に咥えたポッキーを突き出してきたのが、数秒前。
「なにそれ」
 キョウはげんなりして、笑顔の幼馴染にそう聞いた。本当は、聞かなくても答えは分かっている。今流行の、ポッキーゲームとかいうやつだろう。
「ん」
 もう一度、ユタカはそれを強調した。食べろということなのだろうが、昼休み、教室の一角という人目につくこの状況で、なぜわざわざそんなことをしなければならないのか。
 ――不可解だ。そして理不尽だ。
「誰がやるか、アホ」
「んー……」
 ユタカの表情がだんだんと曇っていく。さすがに少し可哀想かもしれないと、キョウは思った。高校生にもなって、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「あーはいはい、わかったから泣くな」
 自分が泣かせたということになっては少々面倒だ。
 キョウはため息をつきたい気持ちをぐっとこらえて、ユタカが咥えているポッキーに素早く口を近づける。
 ポキ、と、小気味良い音が鳴った。
「ごちそーさん」
 真ん中から真っ二つに折れたそれを口内で咀嚼する。チョコレートの甘みが広がった。
 しかしユタカをちらりと見ると、半分になったポッキーを咥えたまま、なにやら赤い顔をして固まっている。
「なんだ、文句あんのか」
「か……」
「か?」
 キョウが聞き返すと、ユタカは必死そうな形相でこちらを見つめてくる。
 そして、思わぬ大声で、
「か……顔が近いよ、キョウちゃん!」
 ――そう、叫んだ。
 白昼真っ只中の出来事だった。



(2010/11/11)


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