「ん」 そう言って、ユタカが口に咥えたポッキーを突き出してきたのが、数秒前。 「なにそれ」 キョウはげんなりして、笑顔の幼馴染にそう聞いた。本当は、聞かなくても答えは分かっている。今流行の、ポッキーゲームとかいうやつだろう。 「ん」 もう一度、ユタカはそれを強調した。食べろということなのだろうが、昼休み、教室の一角という人目につくこの状況で、なぜわざわざそんなことをしなければならないのか。 ――不可解だ。そして理不尽だ。 「誰がやるか、アホ」 「んー……」 ユタカの表情がだんだんと曇っていく。さすがに少し可哀想かもしれないと、キョウは思った。高校生にもなって、今にも泣き出しそうな顔をしている。 「あーはいはい、わかったから泣くな」 自分が泣かせたということになっては少々面倒だ。 キョウはため息をつきたい気持ちをぐっとこらえて、ユタカが咥えているポッキーに素早く口を近づける。 ポキ、と、小気味良い音が鳴った。 「ごちそーさん」 真ん中から真っ二つに折れたそれを口内で咀嚼する。チョコレートの甘みが広がった。 しかしユタカをちらりと見ると、半分になったポッキーを咥えたまま、なにやら赤い顔をして固まっている。 「なんだ、文句あんのか」 「か……」 「か?」 キョウが聞き返すと、ユタカは必死そうな形相でこちらを見つめてくる。 そして、思わぬ大声で、 「か……顔が近いよ、キョウちゃん!」 ――そう、叫んだ。 白昼真っ只中の出来事だった。 (2010/11/11) |