新年早々、家の中はにぎやかだ。顔も知らない親戚のおばちゃんが持ってきてくれるお年玉を受け取りながら、キョウは部屋の隅でつまらなそうにしていた。……否、本当につまらなかったのだ。 大晦日にあったはずのどきどき感はすっかり失われ、窓越しに冬の寒空を眺めては、近くの漫画を手繰り寄せる。それでも、部屋に戻ることは許されない。キョウは弱冠十四歳の子供として、「家にいてお年玉を受け取る」という仕事をきちんとこなさなければいけないのだった。 「キョウ」 何度も読み返した漫画を再び手に取ったときだった。母に呼ばれて、キョウはやおら立ち上がった。今度は誰だろうか。そういえば従兄弟のテッちゃんの親は、まだ来ていないような気がする。 「あ、あけまして!」 しかし、玄関に突っ立っていたのは、にこにこ顔の親戚のお婆ちゃんでも、テッちゃんの親でもなく、暖かそうなダッフルコートを被ったユタカの姿だった。 「おめでとう……」 あっけにとられて、とりあえず挨拶の続きを言って返す。するとユタカは安心したように笑って、大きなポケットから何かを取り出した。 「あのさ、これ……出しそびれちゃったから」 「年賀状?」 ユタカに手渡されたそれをしげしげと眺める。どう見ても、今朝大量に送られてきたお年玉つき年賀はがきだ。 「別に、急がなくてもよかったのに」 面倒くさがりのキョウでも、毎年ユタカには年賀状を送っている。しかしそれは習慣化しているからで、そこまで神経質になる必要もないと思うのだが。 「いや、さ、やっぱりこういうのは元旦に渡したいし……」 「ふうん……ま、いいけど」 「じゃあ、キョウちゃん、今年もよろしくね!」 そう言うが早いか、ユタカはくるりと背を向けて走り去ってしまう。なんとなく呼び止めようとして伸ばした手は、力をなくしてすとんと落ちた。 「……ちゃんはやめろっていっただろ」 しょうがないので独り言を呟いた。年賀状の裏面を見ると、大きなウサギのプリントの上に何か文字が書いてある。読んだあとキョウは思わず周りを見回して、溜め息をついた。よくこんなことを、恥ずかしげもなく書けるものだ。 「……ガキかよ……」 紙面には、意外に整ったユタカの字体で『今年も同じクラスになれますように!』と、大きく書かれていた。 (2011/01/01〜06) |