隣の家のユタカが、またいじめられている。 しかも、道路のど真ん中。いくら人通りが少ない住宅街だからって、この占領の仕方はどうだろう。 「……なにしてんの?」 ともかく、向こうへ渡ってさっさと家に帰りたいキョウとしては、この子供たちの通せんぼは、邪魔以外の何物でもなかったのだ。 「キョウちゃん!」 ユタカが気づいて顔を上げる。服は土で汚れていたが、特に大きな怪我はなさそうだ。 「なんだよ、おまえ」 「知ってる! コイツ、ケンポー習ってんだぜ!」 少年たちが次々に声を上げる。甲高い声が耳にキンキン響く。ちなみに、憲法も拳法も習っていない。キョウはため息をつくふりをして、ふと視線を横へそらした。ユタカは相変わらずうるうるとした大きな瞳で尻餅をついたまま見つめてくる。 「ふうん……」 数人の子供たちの中で特に体格のいい少年がキョウに近づいてきた。何の前触れも無く、拳を振り上げる。が、その手を流すようにして掴むと、そのまま捻りあげてやった。 「痛い、痛い!」 泣きべそをかいて暴れているこの少年がいじめの主犯格だったのか、周りの子供たちは勝ち目が無いと悟るやいなや、いっせいに四方八方へ散らばって逃げていった。ふとキョウはこの少年に同情して、その手を離してやる。 「う、うう……!」 今にも泣き出しそうになりながら、もたつきながら逃げていく少年の後姿を目で追う。すると、ようやく立ち上がったユタカがこっちへ歩いてきた。 「ありがとう、キョウちゃん」 「お前は、いじめられすぎだろ」 言いながら服の土ぼこりをほろってやると、ユタカは情けなく笑った。 「でも、キョウちゃん、やっぱりカッコイイやあ」 ユタカの、このストレートな言葉にまだ慣れない。嘘がないと分かっているから、余計にだ。 「……お前は、かっこ悪いな」 照れ隠しにそう返す。ユタカはまたえへへと嬉しそうに笑っただけで、反論はしなかった。 「帰るぞ」 「うん」 ユタカの半歩先を歩く。 手は繋いでやらない。そんなのは、ガキのすることだ。 (2010/12) |