四月も半ばになって、遅咲きの桜が咲き始めた。大学までの道にこの桜並木があるのだが、歩きながらのんびりとその薄桃色を眺めるのがキョウは好きだった。 「キョウ、おはよう!」 後ろから聞きなれた声が聞こえて、キョウは返事もせずにちらりと振り向いた。 「はよ」 腐れ縁の幼馴染(恋人……と呼ぶのは何だか癪だ)、ユタカは今まで軽快に漕いでいたであろう自転車から降りて、キョウの隣に並んだ。いつも、キョウと歩くときにはこうして自転車を押すのだ。 しかし、ユタカはいつもよりも落ちつかなそうにちらちら腕時計に目を落としていた。 「キョウ、時間やばくない?」 焦ったようにそう漏らす。 「そうか?」 確かに、今朝は特にいい天気で風が気持ちよかったせいか、桜並木をやけにゆっくりと歩いてしまった気がする。 「そうだよ。遅れるよ」 そう言いながらなぜ自分は自転車に乗らないのだろうか。キョウが不思議に思って訊ねると、ユタカは「え」と口をぽかんと開けた後、 「それは……」 言葉を濁した。 「……キョウはさ、長く話したいとか、思わない?」 そしてぼそりと呟く。顔を背けていたが赤くなっているのが分かって――厄介なことに伝染した。そういうことかと、ようやく理解する。 「あー……じゃあ、さ」 もう何年も一緒にいるのに、この気まずい沈黙は何だろう。キョウは足をぴたりと止めて、振り返るユタカの目を見る。 「乗せてけ」 ユタカの顔がさっきとは違う意味で慌て始めた。 「えっ、でも、危ない、よ……?」 「話したくて、遅刻も嫌なんだろ」 「そっ、そうだけど……」 キョウはユタカの自転車の荷台にひょいとまたがると、有無を言わせないようにそのサドルをぽんと叩いた。 「……ちゃ、ちゃんと掴まっててね!」 「おう」 意外にも動揺で車体がぶれることも無く、自転車はスムーズに桜並木を走り始める。手をしっかりと回すと、肩がぴくりと跳ねた。 「……気持ちいーな、これ」 心地良い風とユタカの体温に、思わず顔が綻ぶ。それを知ってか知らずか、 「うん」 とだけ、返事が返ってきた。 (2011/04) |