キョウとユタカシリーズ
夏の遊戯



 なんとかや、岩に染み入る蝉の声――。中途半端に覚えた俳句を頭に思い浮かべながら、ユタカは縁側に寝転びながらうちわを仰いでいた。足はサンダルを履いたまま日光にさらされているが、頭は辛うじて影になった座敷に載せられている。
 畳を擦る音がして、ユタカは首をめぐらせた。幼馴染のキョウが戻ってきたのだ。彼の家は道場をやっていて、家もこうした風情ある趣を残している。
「顔踏むぞ」
「暑い」
 二言目には、これである。キョウも暑いはずなのだが、その表情は至って涼しげだ。長年の謎である。
「ほら」
「うわ!」
 唐突におでこに何かを当てられて、ユタカは思わず飛び起きた。
「な、なに」
 心臓がばくばくと鳴っている。見ると、キョウは満足そうな笑みを浮かべながら、それを縁側に置いた。
「氷?」
 透明なガラスの器に盛られたそれは、夏の日差しにきらきらと反射する氷だ。
「冷蔵庫ん中それしかなかった」
 そう言って、ユタカの隣に腰を下ろす。
「の、飲み物は」
「道場に借り出されてんだ。水、ぬるいし」
「そういうこと……」
 ユタカは納得してうなだれた。クーラーなぞついていない道場の中は、さぞ凄い熱気だろう。風はほとんどないが、ここのほうがまだましだ。
「ほら、文句言うなよ」
 キョウが氷をひとつつまんで、ユタカの口へ持ってくる。暑さで溶け始めた水が彼の腕を伝っていく。その様子が妙に艶めいていて、ユタカは思わずキョウの顔を凝視してしまった。
「おい、早く口開けろ」
「あっ、うん」
 はっとして口を開けると、冷たさが口内にぱっと広がった。キョウも氷を自分の口へ放り込む。
 互いに無言になった。ちらりとキョウを見やると、キョウも横目でこちらを見る。その唇が僅かに濡れている。ユタカは無駄な妄想を断ち切るように、氷を思い切り齧った。
 夏の暑さに神経が麻痺している。
 相当、頭も沸いているらしい。





(2011/08)


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