冬のバス停 8


「やっぱ、ヘン……だよな」
 目黒は、閉じたばかりの携帯電話を見つめながら、ふ、と息をついた。そのままベットに寝転んで、白い天井に視線を移す。
 二日連続で、優也は学校を休んだ。所詮二次対策が必要な人たちだけの補講なので、出ない生徒も多くいる。もちろん、優也のように体調を崩して、というケースも珍しくない。それだけなら、目黒もここまで気にはならなかっただろう。原因は、帰るときに偶然会った部活帰りの後輩との会話だった。
『風邪でダウンが五人で、練習にならなかったんすよ』
『俺のダチもここ二日学校休んでるからな。お前も気をつけろよー』
『ダチって、加藤さんですか?』
『いや、優也』
『え、夏木さん? ……でもあの人、今日もバス乗ってるの見ましたよ』
 その後輩と優也は大体いつも同じバスに乗ってくるらしい。大げさな反応を見せた目黒に驚いたのか「見間違いかもしれません」と言ってその場は収まったのだが、どうも煮え切らない思いだった。
「何か俺に、隠してたり……」
 たまらず電話をかけてしまったが、向こうから聞こえてきた声は眠そうにかすれていただけで、他はいたって普通だった。だが、感じた違和感は消えてはくれなかった。
「なんで、あんなこと――」
 『ありがと』そう言った優也の声は、まるで安心して肩の力を抜いたような、そんな優しい声だった。そこに、目黒はずっと違和感を感じていた。何かがおかしい。
「やっぱお前、風邪なんて、」
 風邪なんて、ひいてないんじゃないのか。
 携帯電話を睨みつける。所詮、こんな細い糸でしかつなぐことはできないのだ。こんな希薄なつながりなのだ、自分と優也も。
「ダメだ。明日、直接、聞こ」
 うじうじ考えるのはいつもの自分らしくない。目黒はがばっと起き上がると、部屋の電気を消す。スタンドライトのそばに参考書が置いてあったが、何となく開く気にもなれず、その電気も消してしまう。部屋が真っ暗になり、しばしの静寂が訪れる。
 もう寝ようか、そう考えて布団をかぶり、目を閉じる。心地よいまどろみが流れ込んでくる前に、目黒は唸りながら寝返りを打った。
「……あー、うるせえぞ、犬!」
 どこからか遠く聞こえる犬の遠吠えが、窓の向こうから微かに聞こえていた。


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